感染症対策と空気清浄機
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)対策のために、HEPAフィルターを搭載した空気清浄機が導入されています。病院・クリニックの診察室や待合室、企業の会議室など人の入れ替わりの多い環境で目にされた方も多いでしょう。
ところで、これがどのくらい有効なのかと疑問に持っている方は多いと思います。学術的な検討は工学や医学の専門家によりなされていますが、ここでは空気清浄機の有効性について考える簡単な枠組みをご紹介しようと思います。
空気清浄機の有効性は、フィルター自体の捕集効率と空気のフィルター通過量に分けて考えると良く理解できます。
入手可能な多くの空気清浄機はHEPAフィルターと呼ばれるメインフィルタを使用しています。これは0.3μm径の粒子を基準に測定したときに99.97%以上の捕集効率を持つフィルターで、非常に小さい粒子を高効率で捕集することができます。HEPAフィルター内部には繊維が網の目のように張り巡らされており、単純衝突の他、重力、ブラウン運動、静電気力により通過する粒子を捕集します。粒径が小さくなるほどブラウン運動や静電気力による捕集効率が上がるため、0.3 μm径以下の粒子であってもそのまま通過することなく捕集されます。
加えて、ウィルスは感染者の口などから飛沫として飛び出し、乾いて飛沫核となり空気中を飛散すると想定されていますが、いずれの場合も粒径はHEPAフィルターで捕集される程度には大きいと考えられております。
実際に米国疾病対策予防センター(CDC)のガイドラインでも感染症対策にHEPAフィルターを使用することが推奨されています。
空気がフィルターを通過することで清浄化が行われるため、効率よく室内の空気がフィルターを通過することが重要となります。部屋のレイアウトなどの環境によってフィルターへの到達効率が変わりますが、ここでは換気回数という指標で空気清浄機の風量と部屋の広さについて考えます。
換気回数は通常1時間当たりに行われた換気の回数を表しており、部屋全体の空気が1度入れ替わると換気回数1となります。今回、空気が清浄機を通過することは、実際には外気を取り入れたという意味での換気ではないのですが、広く使われている指標で比較しやすいためこの指標を使って考えてみます。
ここで、縦横高さが3m x 3m x 3mの病院の診察室を想像してみてください。さらに風量毎時600立米(毎分10立米)の空気清浄機を設置したとします。この場合、換気回数は27立米の部屋に対して約22回(= 600 / 27)となります。
換気回数の目安として、米国疾病対策予防センター(CDC)のガイドライン等で、換気回数12回が空気感染対策病棟の施設管理の一つの目安となっていますので、ある程度有効な数値ではないかと想定できます。もちろん実際にはこの指標だけをもって判断せずに総合的な判断を行う必要があります。